松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「蒐集物語」より

先日民藝館で買った本が予想以上に面白い。

柳宗悦がものを集めた際の、
手に入れるまでの物語のうち、
幾つかの印象的な出来事について書いている。
後半の蒐集全体に対する考え方よりも、
前半の具体的な物に沿ったお話が大変面白い。

1万7000点もの収蔵品であるから、
私の見たことのないもののほうが多いはずだが、
この本に出てくる物は不思議と、
ああ、あれ、とわかるものがかなりある。
あの岩崎男爵が譲ってくれた、
曽我屏風の回も大層面白かったが、
「色紙和讃に就いて」を紹介する。

浄土真宗の和讃の本である。
和讃は仏教の教えを言葉の調子も良く整えて、
人々が口ずさめるような歌のような形にしたものである。
漢字とカタカナで、大きめの字でくっきりとすられている。
私はこれを民芸館で初めて見たとき、
本当にびっくりしたし感動した。
とにかく文字の美しさとそのオリジナリティ、
こんなものがあったのか!と。
とても室町中期のものとは思えなかった。

富山県城端別院で、最も古い時期の、
色紙にすられたものを始めて見たときのくだり。
「こんなにも美しい版本を生まれてこのかた見たことがない。幾許かの古写本に、豪華なものや優雅なものはある。だが少なくとも刊本において、これに優る例はは未だ触れない。それにただ麗しいのではない、ただ優しいのではない。色も文字も摺方もすべてが確実で健全である。」
著者は光悦本、嵯峨本などの造本を賛美して、
これには沈黙しているのは何故だ、と、
ほぼ完全に怒っている。
そして浄土真宗という宗教だからこそ作り得た美しさであろうと。
それは民衆、平信徒こそ救われるべきという考え方、
仏教の教えを確実に大衆に手渡そうという心が生んだものだと。
この意見にはいちいち同感する。
光悦本などの豪華な雅な物とは、
全く趣を異にするが、確かに大変美しいものである。
著者は宗教学者でもあるので非常に力がこもっている。
その後執念が実って、ついに京都で、
別院のものよりは簡素ながら古い時期の、もともと数の少ない、
二色の色紙和讃を手に入れたのである。

〈二色は黄檗と朱(黄色とオレンジの感じ)で、
1ページづつ順番に色が変わる。〉