松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

曽我屏風入手の顛末

やはり曽我屏風についても紹介しちゃおう。

大きな古美術商の大展示会でこの屏風に惹きつけられる。
これも私は見ているが、物凄く面白い絵である。
一見して素人の描いたもののようだが、
人物も動物も活き活きして全体にはユーモラスなおかしみがある。
「この屏風を見た瞬間、民藝館のためにわざわざ現れた品物だと、そう思わざるを得ないほど、我々の求めている素晴らしい民画であった。」
これはすでに道具屋が岩崎男爵にお勧めするため取り置いてあった。
明日見に来られた上でどうなるか決まるという話であった。
民芸館がぜひ欲しいと言っていることお伝えくださいねと言って帰る。
この屏風が気になってたまらないのにその後音沙汰がない。
問い合わせると、ご本人は来られなかったが、
屏風はもう送ってしまったと。
岩崎男爵と言えばこの時代なら小弥太氏である。
小弥太とそのパパの蒐集品が現在の、
静嘉堂文庫で公開されているものであるから、
当時の大金持ちかつ目利きの超大物ということになる。
柳氏は店の人の対応に、えっ話が違うじゃんと思うとともに、
ひるまず男爵にお願いの手紙を書き、
民芸館の説明のために資料なども送る。
それにもしばらくは反応がなく、
偉い方は見も知らぬ者からの手紙など読まないのか、
とブツブツ言っていると、
ある日突然屏風本体が届けられたのである。
かつ値札は最初の時よりは安く付け替えられていた!
嬉しいと同時に心の中でいろいろ不平を言った自分が、
やや恥ずかしくもあり、
ここに岩崎男爵への感謝の思いを込めて、
顛末の全てを書き留めたとある。

さぁそれから柳はお仲間と一緒にこの屏風を鑑賞する。
河合、浜田、芹沢が揃って喜ぶ。
「私は河合や浜田や芹沢がこの屏風を非常に感心して見てくれたのを傍で見ていて、その感心のしかたにまた感心した。これらの知己を有つことを私はいかに幸いに思ったことか。」
良いものが手に入った時こうして彼らはいつも集まって、
喜びを分かち合い、その良さを語り合い、
クリエイター達はそれを糧として各々の新たな創作物に生かしてきたのである。
羨ましいほど幸せな人たちである。

「蒐集物語」柳宗悦
中公文庫