松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

ペレイラ終わり

カルドーソ先生についてもう一つ。

先生はペレイラに打ち明ける。
こちらもだんだん住みにくくなったから、
サン・マロの海洋療法施設に移るつもりだと。
サン・マロ!!
「すべての見えない光」の舞台。
あの本とこの本、実は同じ時代を描いている。
サンマロは、戦争の終わりの方に、
壊滅的に破壊される。
カルドーソ先生は無事だっただろうか、
と思わずにいられない。
ペレイラ同様、
私もこの先生がすごく気に入ったので。
もう一つ、ペレイラは時々、
コインブラで過ごした、
大学生の頃を懐かしく思い出す。
コインブラは、首府がリスボンに移る前の、
ポルトガルがぶいぶい言わせていた頃の、
古都である。
コインブラ大学は、13世紀にできた、
世界で最も歴史のある大学の一つ。
(世界遺産にもなっている建物が凄い。)
甘いレモネードをひっきりなしに飲もうが、
いつも暑がっていようが、
実は間違いなく超インテリなのだった。
天正少年使節、クワトロラガッツィも
コインブラを訪れ、
この地でかの印刷機を購入している。
タブッキのこの本は、
ペレイラの人物造形を始め、文体も、
どことなくユーモラスでとぼけている。
こう言う明るさも大事だなぁ。
なんとなく井伏鱒二を思わせる。
彼にかかると、
黒い雨でさえほんわかした味が出る。
しかし隅々までよく出来ている。
ペレイラは大新聞の社会部にいたが、
今は小さい夕刊紙の一人だけの文芸部員。
こんな設定も、
少なくとも加担はしたくない、
というのが転職の理由ではなかったか、
と思わせる。
小説家とは大したものだと思う。
私のような一度では理解できない読者にも、
精一杯の作品を読ませてくれる。
ちなみにタブッキは、
プリーモ・レーヴィとはお友達である!(祝)

これにておしまい。