松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

」ガザに地下鉄が走る日」おしまい

イスラエル軍が子どもに容赦しないことは、

驚くほどである。
車椅子の障害者を狙い撃ちにしたり、
早産の危険で病院に行こうとする妊婦を、
検問を通させず、そのせいで赤ちゃんを失った人もいる。
だから子どもの死者もとても多い。
いつの芝刈りだったか忘れたが、
死者が多すぎて安置する場所もなく、
小さな子どもが二人、
アイスクリームのショーケースに入れられていたと。
胸がつぶれる。
こういう過酷な環境で日々を送っている子供たちに、
大人は必死で、勉強を教え、
歌を教え人形劇を見せて、少しでも、
心を解きほぐそうと苦労している。
この本のタイトルはどういう意味があるのかと思っていたが、
終わりの方にその話が出てくる。
ガザを縦横に走る地下鉄路線図を描いた、
アーティストがいた。
駅名をつけ、駅のサインをデザインし、
その場所に立てて写真も撮り、
実に車両デザインもした。
これを見て、やはり人はちょっと楽しくなるのである。
ありえないような話であるのに。
実際の日常は、あちこちで検問で止められ、
夜の間に道路をふさぐコンクリートブロックが置かれ、
まめに嫌がらせをする!
思うところにたどり着くのさえ難しいのだが。
人はどんなに絶望的な環境にあっても、
心までやられてしまったらおしまい。
かすかでも希望がなくては生きていけない。
そのためにアートが果たす役割は想像以上に大きい。
日本では芸術も文化も、学問も、
どれだけお金を生み出すか、
でしか評価されなくなってきている。
でもそれは絶対に違う。
大昔、洞窟にたくさんの動物の絵を描いた芸術家がいて、
それ以来引きも切らず様々な芸術が生み出されてきた。
それは人間にとって、
とても大事な必需品だからである。

岡真里著

みすず書房