松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

サトクリフさいさいどくどく

また「ともしびをかかげて」を読んだ。
ローズマリーサトクリフの。
サトクリフはたくさん書いているから、
全部読んでいるわけではないが、
この初期のローマンブリテンのシリーズが一番面白い。
歴史ファンタジーとも言われるが、
このシリーズは子ども向けとは言え、
時代考証もしっかりし、人物の内面の描写も深く、
歴史小説と言えると思う。
日本語のファンタジーは、
どうにもふわふわでピンクな感じだけど、
そういうものでは全くない。
硬質で重い、もっと言えば少し暗い。
猪熊さんの訳は持ち味がぴったりあっている、
男っぽいというと変だが、キリッとシャープ。
これを読むのは多分4回目くらいだけど、
今回この挿絵の力も大きいと思った。
チャールズキーピングという人。
ファージョンとアーティゾーニ、
ケストナーとトリアーのような、
切っても切れないコンビの合わせ技一本である。
絵本は絵が主だから、
技法もタッチもなんでもありで様々だが、
読み物の挿絵は、
内容の理解を助ける意味もあるせいか、
状況描写的なものが多い。
キーピングの絵はペン画だが重い絵で、
古代ブリテンの独特な暗さを感じさせる。
そのまんまの情景というより、
かなりデザインされた構図である。
光と影の扱いが上手い。
やはりなんだかんだ言って子どもの読みものの絵は、
責任重大なもんであるなぁと改めて思う。
読みものはテキストが主ではあるが、
本という現実の形になれば、
その挿絵のイメージは無視できないものになる。

あまりに面白いから、
また何度目かの「王のしるし」にかかろうと思う。
これも私は好きだ。
かなりシリアスな部分もあり、少し怖い。
時代設定的にはシリーズの中で一番古い。
挿絵もいよいよ古代的荒々しさを帯びる。
これは1973年の初版本。
出版は時代順ではないが、
多分この本が最初に配本されたと記憶している。