松井なつ代のやま

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「凍」からもう一つ

山野井さんたちの山登りは、
アルペイン・スタイルと呼ばれるものである。
大人数の隊を組んで、
大量の装備を伴って酸素ボンベの力も借りる方法でなく、
身一つで単独で時間をかけずに登る。
空気の薄い高山は、長くいるだけで、
生命に危険をもたらす。
7000、8000m級では6日が限度とも。

誰しも高山病にはかかるわけだが、
高地に体を慣らすために、
何度も登山を繰り返しながら準備する。
これはそれぞれの体質が大きく関わっていて、
妙子さんは適応し難い。
世界的なクライマーであるが、高山では、
水も食べ物も吐いてしまって受け付けない。
ひどい時はめまいや、頭痛も…

この時も体調が悪すぎて、頂上は諦めている。
ギャチュンカンは切り立った石の壁である。
下りが恐ろしい。
天候が崩れ、帰り道に恐ろしいことが、
起こりまくるのである。
次々に雪崩が起きる。
ロープで繋がっていた妙子さんが落ちる。
数十センチの出っ張りもない壁に、
ロープでブランコを作り、それにお尻を乗せて、
夜を過ごす。
時間がかかればかかるほど体が動かなくなり、
指は凍傷が進み、しまいに目がよく見えなくなる。
全身に血が回らなくなってくるのだろう。

最後は二人がバラバラになる。
まず山野井が着き、二人が遭難したと判断して、
集まっていた人が妙子さんを探しに行く。
彼女もあと数百メートルというところまで、
自力で降りてきていた。

もう本当に恐ろしいんだけど、
二人が見事に清々しくて、なんか勇気も湧いてくる。
私が勇気を沸かせるのも、
ちょっとおこがましすぎて笑えるんだけどね。
二人とも指がすっかり減っちゃったのに、
数年後やむなく捨ててきた荷物を回収に行く。
荷物は見つからず、アメリカ隊の捨てたとみられる、
カンズメの空き缶を一つだけ発見する。
それをもって、この山登りは終了した。

私、明日からやまなんだけど。笑