松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

ある女性

この本には当然、

さまざまな人間が登場する。

その土地の、国籍的にはそこの国民だが、

民族的には実にさまざまで、

中央アジアのあのあたりの、

混ざりぶりは激しく、

ロマなどの系列の、

移動する人たちもたくさん出てくる。

また西欧圏の外国人として、

その土地に長く住む人たちも、

少しはいて、そんな人は、

激しくユニークだったりする。

ここではその中の一人のこと。

著者も彼女のことは一生忘れないだろう、

と書いている。

ホテルの中庭で、ホテルの便所の汲み出しを仕事にしている女にであう。

朝会うたびに挨拶をしてくれる。

ある日、なぜかうっかりドイツ語で返事をしてしまった。

彼女は突然足を止めて笑みを浮かべ、

ドイツの方ですか?

違うと答える。

彼女はドイツ語で話し始める。

「私はユダヤ人のマケドニア人です」

「ドイツの事はよくしっています。」

実に、彼女は収容所の生き残りであった。

満足そうな表情で、

彼女はそれを語ったのだった。


過去の悲惨な経験と折り合いをつけ、

ついにはある種のプライドの核にさえ、

なっている。

その後の彼女の人生も、

また別の厳しさの連続であったのだろう。

こんな人も世界にはいたのだった。