松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

辺境からの三つの〈自伝〉

結構面白かったです。

3番目のサマータイムは、
面白い仕掛けで、
クッツェーの伝記を書こうとしている人が、
5人の人物にインタビューをする。
付き合っていた人妻、いとこ、同僚など。
一人目は女性の一人語りで、
会話文が続くのがちょっと読みずらかったが、
二人目は、一度インタビューを済ませていて、
その書き起こしを、
伝記作者に読み上げてもらい、
チェックすると言う設定。
なる程これなら読みやすい。
工夫したやん、笑
途中まで読んで、
クッツェーが既に死んでいるらしくて、
びっくりする。
女性四人に男性一人だが、
それぞれの個性も異なるが、
彼の性格から、書いた本の批評など、
これでもかと辛辣な言葉が並ぶ。
英語の家庭教師をしていた子の母親の、
言葉は余りにも情け容赦ない、
ダサい男ぶりを描き出していて、
笑える程である。
本人が、自分はこう見られているだろう、
自著はこう読まれているだろう、
と考えた自分像を書いているわけだ。
やや自虐的で厳しい自己評価であるが、
実に、私の彼のイメージに、
ものすごくピッタリ当てはまるところがあり、
おかしくなる。
南アフリカという国の状況なども含む、
訳者の解説が充実しておりよかった。
クッツェーのシャープな文体について、
前に書いたが、
なんと何度も書き直されている。
「恥辱」は14回、「遅い男」は、
25のバージョンがある!!

サマータイム、青年時代、少年時代」
J・M・クッツェー著 くぼたのぞみ訳