松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「明月記を読む」1

「明月記を読む」上巻読了。
明月記は定家の残した日記である。
実に56年の長きにわたって書き続けられたもの。
この日記はすべて漢文で書かれており、
分量が甚だ多いため、通読した人は、
専門家のうちのごく一部に過ぎないという、
有名だけど幻の書的なものでもあるらしい。

日記の内容は歌のことばかりでなく、
日常生活のこと、貴族の知っていなければならない、
様々なしきたりやお約束の覚えなど、
広い範囲に及んでいる。
後白河院が亡くなったというような記述がある。
あの今様が大好きで梁塵秘抄を書いた彼である。
定家のボスは九条兼実である。
彼はこの前読んだ法然にも出てきて、
法然の熱烈なファンで、法然が流刑になった時、
手を尽くして助けようとしたが上手くいかず、
心配のあまり悲しみのあまり死んじゃった人である。
要するにあの頃の話である。

上巻は主に定家の歌を解説しているが、
これもなかなか面白い。
定家のパパは俊成であるが、当時の歌界の大御所であり、
歌合のような勝ち負けを決める際の、
判定者をやる。
判定に際してはちゃんとその理由も書かねばならない。
判者はそれなりに人々を説得できる、
批評ができて、なおかつ恨まれたりしないような、
温厚な性格でなければならない。
これを読んでいると、定家は才能のある若者で、
新しい風を吹かせてデビューしている。
パパは流石に保守的というか、
息子のそういう荒々しい部分を良しとしない。
しかしだんだんに、こう言うのもアリかなぁという感じで、
定家の斬新な表現に追いついてくるあたりが、
面白い。
続く