松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「梁塵秘抄」2

今様のテーマは本当に色々で、
どれから紹介しようかと迷ったが、
それなら聞いたことある、とみんながわかるものが、
良いと思って、これにした。

「遊びをせんとや生まれけむ
戯(たわぶ)れせんとやうまれけん
遊ぶ子どもの声聞けば
わが身さえこそ揺るがるれ」
一心に遊ぶ子どもの声で、
自分の体まで自然に動き出してくる、
と言うような意味である。
そのものズバリの表現で子どもたちを描く。
古今集以降の和歌では、何を言うにも、
いかに上品に仄めかすか、連想させるかなどに、
努力は向い、こういうシンプルなものはない。
ま、それもまた興味深いが。

もひとつ、これもかなり有名だが、
もう少し大人の世界。
「われを頼めて来ぬ男
角三つ生(お)いたる鬼になれ
さて人に疎まれよ
霜雪霰降る水田の鳥となれ
さて足冷たかれ
池の浮草となりねかし
と揺りかう揺り揺られ歩け(ありけ)」

あてにさせておきながら通って来ない、
薄情な男に投げかけた女の呪詛。
私はこれはすごい面白いと思っていたが、
この本で、
「主体が漂泊する遊女であるとすれば、
冬の寒さ浮草の境遇の辛さは十分過ぎるほど知っており、
それを味わわせようという素材選びであれば、
激しい呪いの底に深い悲しみがあるのでは、」
という解説を読んで、(一部省略)
なるほどとしんみりしてしまった。

「と見こう見」という言い方は今もあるが、
それの揺れ版である。命令口調、笑。