松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

種の話4

種子の話で大事なことをもう一つ。
UPOV条約について。
これは植物の新品種の保護に関する国際条約である。
1991年の改訂で開発者の許可なく、
農家が自家採種する事を原則禁止とした。
これはいわゆる知財の保護というやつである。
日本は1998年に批准済みである。
これに反対している国も多いが、
貿易協定を通して押し付けられる。
TPPでもこの条約の批准は義務付けられている。
日本では自家採種できる種はまだ残っているが、
UPOV条約の適応範囲は拡大され続け、
自家採種できない種は増えてきている。

娘が自然農法の田んぼを始めたのは2年前だが、
肥料も農薬も一切使わずに米と豆などを作っている。
米に関しては草取りだけ、豆はそれもしない。
それでも美味しいお米が採れる。
(1年目は一般的ないろいろ足し算する農法と同じ収量であった。
2年目はやや不作)
農業は天候の影響をもろに受けるが、
それでも何かを足し算しなくともできる。
植物は種から芽が出て花が咲いて結実するというサイクルで、
人間が途中で失敬しようがしまいが、
完璧な持続可能なシステムの中で生きている。
手元に今ないから正確に引用できないが、
菌根菌が驚くほどのリンを植物に供給する事例が、
土と内臓に出てきた。
植物もまたマイクロバイオームと共生することで、
根張りも良くなり水不足にも強くなる。
昆虫にやられる事もあろうが、
(害虫を寄せ付けない働きをする菌類もいるが、)
それでも全滅しないで、
人間がこの世に出てくる前から生き延びてきたから、
今こんなに多様な植生があるのである。
一度種を手にすれば、お金は一銭もかからない。
長いスパンで見ると、自然農法の方が、
収量が多いという事も分かっている。
問題は、それではお金の物語に関係なくなってしまうのが、
困る人たちがいるということである。
それでも、これからも人がここで生きて行くつもりなら、
我々は生類の側に居なければならんだろうと私は思う。

「世界5月号」印鑰智哉氏の記事から