松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

水俣のこと

水俣で買ってきたもう一冊も読み終えた。
水俣女島の海に生きる」緒方正実著
これも実に良い本であった。
緒方正実さんは水俣で活動しておられる、
緒方正人さんの甥御さんである。
ちょうど昨日、東京で石牟礼さんを偲ぶゆかりの方々の、
講演会があった。
(皇后美智子さんもいらしたようだ。)
正人さんもこの時お話しされたらしい。
私も行きたいところだが、
大きな会場でマイクを使った講演会は、
ほぼ確実に聞き取れないので諦めた。
さすがに聴覚障害者はこんなときかわいそうである。
岩波から、ちょうど
水俣へ」「水俣から」という2冊の講演録が出た。
これは沢山の水俣関係の話の中から選んだもので、
もう故人となった、鶴見俊輔網野善彦
などのものも入っている。
新しく意外なところでは奥田愛基さんも。
ここはゲットすべきかと思っている。

正実さんの本に戻る。
彼の家族親戚には水俣病の患者が20人もいる。
劇症でなくなったお祖父さん、入れ替わりに生まれた
妹さんは胎児性患者、父上は30代の若さで亡くなっている。
水俣病の苦しみ、差別やバッシング、
これらにすっぽり囲まれて育ってきた。
そして自分は水俣病ではないと症状を隠し、
38年間水俣病から逃れようとして生きてきた。
そしてついにこれに向き合おうと決意する。
自分はじいちゃんを妹を、
蔑視していることになるのではないか、
自分の気持ちに正直に生きなければならない。
そのためには水俣病と正面から向き合おうと決意する。
それから彼は認定申請をし、却下され続けて、
不服申し立てをし、10年かけて認定される。
裁判なんかでもそうだが、
こういう作業はものすごく煩雑な、
書類を沢山作る必要があるが、
全て自分で書き、何度も何度もトライしている。
この本は緒方さんの個人史ではあるが、
水俣病事件の一つの側面でありつつ、
心から共感できる生き方の見本としても読める。

水俣に関する本を読んでいつも思うのは、
彼らは必ず苦しんで死んでいった人々を悼むと同時に、
魚や鳥や猫たち、同じ病気で命を落とした、
生き物たちを悼むことを忘れないという事。
本当に必ず彼らへの言及がある。
水俣の慰霊祭でも彼らは人間と一緒に慰霊されている。
経済最優先のお金の論理の反対側にあるのは、
生類の世界なのだと確信する。