「すべての見えない光」2
目の見えない娘を連れて、
パパがやっとの思いでたどり着いたのが、
サン・マロという場所です。
ここはブルターニュ地方、うさぎの出身地でもあります。
海を隔てて向こうがイギリス、
住民はフランス人というよりは、
マロの人間で、ブリトンであると自覚している。
ここには大叔父さんが住んでいる。
この人は第一次大戦の時精神に打撃を受け、
それ以来半分以上引きこもりの生活をしている。
このおじさんも博物学者で音楽好きで、
ラジオにやけに詳しい、かっこいい人である。
おじさんの精神と日常を支えているのが、
ずっと前からこの家に住み込んでいる、
マネッタ夫人というお手伝いさんである。
真夜中にボロボロになってたどり着いた二人を、
迎え入れ、素敵なオムレツを食べさせる。
この人がねぇ、とても素晴らしい。
どんな状況になっても精一杯、自分のできることを、
やり続ける勇敢なおばさんである。
片目の一癖ある宿無しのおじさんに、
食事を運び続け、桃の季節には箱買いして、
シロップで煮て保存食にする。
どこの国にもいるだろう、
ごくありふれた庶民の一人である。
愛情と知恵と勇気、そういうものでできている人。
ほんの半径何十メートルの範囲にしか影響力はないけど、
マネッタ夫人のおかげで、
たぶんみんなが少しづつ助かっている。
彼女はね、まさに「贈与の人」なの。
それでいてちょっと男っぽくてクール。
優しいくせに甘ったるい感じがない。
愛煙家。
この人のことを思うと、
感動しつつ、勇気も湧いてくる。
小説の中の人だけど、お手本やなぁと思う。