松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「アリの巣の生きもの図鑑」

先日来若い生物学者の本を、
三冊続けて読んだのだが、
もうダントツにわたしがおすすめするのは、
小松貴著の「裏山の奇人」です。
表紙のグラフィックが目を引いたので、
「バッタを倒しにアフリカへ」のほうが、
売れたと思うけど。
(平積みになってましたからね。)

小松氏の学者としてのスタンスは、
本当に尊敬に値するものですし、
彼の捕虫テクニックの素晴らしさは他の追従を決して許さない。
昆虫学者は昆虫を捕まえなくては研究ができませんから。
そして人柄も大変好ましく、文章もうまいです。
(褒めまくり、笑)
彼の専門とする蟻と共生して生きる生物の、
生態は生物多様性なんていう言葉が、
もの足りないほどの、ワクワクするような、
不思議に満ちています。

南米で軍隊アリの行進を観察する場面では、
私もそに場にいたように呆然としてしまった。
軍隊アリの破壊力は凄まじいので、
黒い川のような行軍の道筋に当たる地面に住む昆虫は、
察知するとワラワラと逃げ出すのですが、
この逃げ出す昆虫を狙って、
アリドリという鳥がやってくる。
私はこの鳥のことは偶然知っていたのですが、
こういう場面でこういう風に採餌するのかと初めて知った。
(これはオスとメスが青と赤で別の鳥のように違う。)
また逃げ出すゴキブリに産卵するハエが、
これも行列目指して寄ってくる。
ハエは昼行性でゴキブリは夜行性なので、
軍隊蟻の行進は二者が遭遇するまたとないチャンスなのです!
ハエは蟻に直接絡む訳ではないが、
こういう形で依存しているのです。
(筆者が完全に惚れてるのはメバエというやつ)
鳥や虫の糞を狙ってやって来る蝶も華を添える。
様々な利害関係者たちが勢ぞろいして、
著者が言うところの、天国か地獄かわからんような、
凄まじい阿鼻叫喚の場面が展開する。
(ビジュアルだけでなく彼らが出す音の総体も凄いらしい。)
関係は食べる食べられるといった、
単純なものだけではないとこがすごい。

という訳で、
小松貴さんの「裏山の奇人」を二回連続で読んだら、
やっぱりこれは買わねばいかんあなぁと思って、
世界でも珍しい好蟻性昆虫の図鑑、
「蟻の巣の生きもの図鑑」を買ってしまった。
紀伊国屋にあるかなぁと思ったらあっちゃったので…
私ははっきり言って小松貴さんのファンです。
はい。

日本のこの手の図鑑では珍しく、
レイアウトデザインがすごくきれい。
小松氏も大活躍の昆虫の写真が、
非常に美しいせいもあるが。
小松氏は新種をバンバン見つける天才生物学者だが、
写真の腕もいける。
このレベルの昆虫写真は逆に専門家が撮るしかないわけだ。
どこにいるかわからん地味な虫を、カメラの腕は良くても、
専門知識のないカメラマンには撮れないだろう。
見つける事ができる人が撮るしかない。

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