松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

再読の勧め

プリーモ・レーヴィの、「今でなければいつ」にかかった。これは自分で持っていた本で、若い頃に読んだもの。若者には旺盛な好奇心、なんでも吸収する柔軟性、どんどん読めるエネルギーなどがあるが、その理解力に関してはどうだろうか。これを若い私がわか…

本の未来

私のような、専門家でもなく日本語しか解さないおばさんが、いくら知りたいと思っても、正しい新しい知識を得ることは難しい。専門書や論文などは無理だし、一般書が出て初めてアクセスできる。その本も年々読む人が減って、出版される量が減っている。おま…

シャワー室

汽車から降りたユダヤ人は、手際よく、事務的に迎えられ、「シャワーのため」裸になるよう、勧めを受けた。時には石けんとタオルを手渡され、シャワーの後には熱いコーヒーが出る、という約束まで与えられた。事実、ガス室はシャワー室のように偽装され、水…

「これが人間か」

「休戦」は伝染病患者の部屋で取り残された仲間の、一人の死体を外に運んでいる時、ロシア兵が現れるというところから始まる。「これが人間か」は、逮捕された著者が、ゲットーに集められていたイタリア系ユダヤ人と一緒に、アウシュビッツに向けて出発する…

「梁塵秘抄」4

今様はその名の通り、今現在の世の有様をいち早く歌にしているから、流行りのファッションから政治的な物まで、本当にテーマは多岐に渡る。梁塵秘抄を書いた後白河院は本当に面白い人で、次の天皇を誰にするかの、やばいゴタゴタに対する批判的なものも、自…

「梁塵秘抄」3

「神ならばゆららさららと降りたまえいかなる神か物恥ぢはする」 これは今回買った植木朝子編訳の「梁塵秘抄」には取り上げられていない歌である。井上靖の「後白河院」の中に出てきて、梁塵秘抄買うべ、と思うきっかけになった歌である。この全体的な不敬な…

「梁塵秘抄」2

今様のテーマは本当に色々で、どれから紹介しようかと迷ったが、それなら聞いたことある、とみんながわかるものが、良いと思って、これにした。 「遊びをせんとや生まれけむ戯(たわぶ)れせんとやうまれけん遊ぶ子どもの声聞けばわが身さえこそ揺るがるれ」一…

「梁塵秘抄」さわり

日曜日の午後に地元の本屋に注文した本が、火曜の午前中に着いた。みんな達も本は本屋さんで買いましょう。これで安心して読める。借りた本は付箋とか付けられないから。 「梁塵秘抄」をパラパラ読み始めたが、予想に違わぬ面白さ!今様は歌うものだからどう…

お願いだぜ!

ついに、「これが人間か アウシュビッツは終わらない」にかかった。私はこれが彼の代表作であり、様々な国で読まれ、今世紀に読むべき本に選ばれている、大事な一冊であることは知っていた。それなのにこれを最後にしてしまった。もちろん恐ろしかったからで…

「休戦」おまけ

プリーモ・レーヴィと私とでは、生まれた時代も場所も受けた教育も食べたものも、全く違うわけだが、どうしてこうも何の問題もなく共感できるのだろうか。現在日本に住んでいる多くの日本人の、考え方や行動の方が、私には理解できないものが多いように思う。…

「休戦」6

ロシア人と歌についてもう一つ、短い文章だが非常に印象的だった話を。 長い間いろんなところで散々待たされ、その都度、希望や郷愁の思いと絶望を繰り返したが、ついにイタリア人たち、(アウシュビッツ生き残りだけではなく)総勢1400人を乗せた列車が出発す…

「休戦」5

1945年5月8日に戦争は正式に終わり、ロシアもヴィクトリーデイということになった。 この時に著者は、やや呆気にとられながら、ロシアの隠し持っていた強烈な魅力に、圧倒される。「ソヴィエトは巨大な国で、その内奥に大きな情熱のかたまりを宿していた。そ…

「休戦」4

彼らはポーランドにあったドイツ軍の収容所から、ロシア軍によって助け出された訳だが、ロシアの組織の特徴は、今風にいうとアバウト、全てが大雑把。誰に聞いても先の予定はわからず、実は計画というほどのものは、そもそも存在しなかったのかもしれないと…

「休戦」3

この本には正にありとあらゆる種類の人々が出てくる。同じ収容所の生き残りの中には、ちっぽけな悪党や商人やレンガ工、その他いろいろの風変わりで個性的な人物が登場する。著者自身はトリノで化学を学んだドットーレであり、インテリである。しかしそうい…

「休戦」2

レーヴィは九死に一生を得て、アウシュビッツから抜け出したわけだが、そこから直接トリノに帰ってこられたわけではない。ぐーっと、右の方に、ロシアの奥の方を回って、それから下の方へ行って数々の国を通り抜けて、さんざん大回りをして、イタリアに帰り…

プリモ・レーヴィ

プリモレーヴィの再読運動が、姉方面で起きていて、私は「今でなければいつ」しか読んでなかったので、今「休戦」を借りて読み始めた。彼はトリノで捕まりアウシュビッツを生き延びた。ドイツが逃げ出す時、たまたま猩紅熱にかかっていて、伝染病の病棟にい…

エルサ・モランテ

自分の本の整理をしていて、エルサ・モランテの「アンダルシアの肩かけ」が出てきた。この本のことはすっかり忘れていて、もう一度読むことにした。表題作はやや長いがあとはみんな短編である。モランテはお話作りが上手すぎるから、読み急いでしまって、忘…

海苔巻き

この前金沢に行った時、昆布屋のしら井さんでかんぴょうを買いました。姉が最近滅多に出ないからと、プッシュしてくれたので。それで、ひさーしぶりに海苔巻きを作ろうと、タイミングを見計らっていたのです。古本屋のお兄さんが来てくれるというし、娘も来…

「春の城」読了

やっと「春の城」を読み終えた。途中でちょっとだれてしまって、他の本に先を越されたが、読み終えればこれはこれで、誠に石牟礼さんらしい島原の乱であった。先日九州に行った訳だが、島原半島には目の前まで行きながら、足を延ばすことができなかった。や…

お姉さんの本

古い少年少女世界文学全集である。夫のお姉さんが子どもの頃に買って貰ったものらしい。すごい量があるから、数年間に渡っての配本だったのだろう。私の家はそんなに金持ちではなかったので、本はお誕生日に買ってもらうのが精一杯だったが、その分すごい集…

雑誌「飛ぶ教室」

「飛ぶ教室」という雑誌がある。ケストナーの本のタイトルから、名前が取られている児童文学の雑誌である。私の持っているのは古いもので、今江祥智さんなどが編集している時代のもの。宮沢賢治についての記事があるから、買ったのかもしれない。古本でてに…

笑うアユム

突然回ってきたこんなツイート! 「チンパンジー学者のジェーン・グドールが京大で講演した時「今日は沢山のチンパンジーピーポーがいらっしゃるのでまずチンパンジー語で挨拶を」と言って、「オッオッ、オオーッ」と言ったのに対して、日本の霊長類学者たち…

近日オープン

娘が中学生の時、お誕生日に、ナショナルジオグラフィック1年分、と言うのをプレゼントしたことがある。成り行きでそのまま何年か定期購読した。ある時、記事のアメリカの他国に対する、上から目線的なニュアンスが鼻について、それで意見が一致したのもあっ…

自分の本の整理にかかる

ついに自分の本の整理にかかることにした。娘の友達がこのご時世に古本屋を始めるらしい。もらえる本があれば欲しいということなので、今日日、古本屋に売っても驚くほど叩かれるので、若い人に持って行ってもらう方がずっといい。 ところが、つらつら見るに…

いつも農業問題をわかりやすく書いてくれる、印鑰さんの記事を引用させてもらっているが、この難しいお名前は、中世の「鍵とハンコ」を管理する役職のことだった。今読んでいる網野さんの対談集に出てきました。多分ご先祖は、その様な重いお役を担っておら…

河島先生に感謝

河島英昭さんが亡くなった。私はこの人に何となく世話になった感がある。パヴェーゼ、エーコなどたくさんの本を、翻訳しているイタリア文学者である。ごく若い頃パヴェーゼに夢中になっていたことがある。訳本が晶文社から連続的に出版されていたが、次はい…

新本古本

先日来爺さんの書斎を掃除している。本が夥しいのだが、玉石混淆でなかなか難しい。今日は珍しい辰巳浜子の古い本を見つけた。異常なくらいの食いしん坊で、私は浜子が気に入っている。現在でも読めるものは読んだが、これは昭和の香りたっぷりの写真が入っ…

種の話4

種子の話で大事なことをもう一つ。UPOV条約について。これは植物の新品種の保護に関する国際条約である。1991年の改訂で開発者の許可なく、農家が自家採種する事を原則禁止とした。これはいわゆる知財の保護というやつである。日本は1998年に批准済みである…

水俣のこと

水俣で買ってきたもう一冊も読み終えた。「水俣・女島の海に生きる」緒方正実著これも実に良い本であった。緒方正実さんは水俣で活動しておられる、緒方正人さんの甥御さんである。ちょうど昨日、東京で石牟礼さんを偲ぶゆかりの方々の、講演会があった。(皇…

種の話3

民間品種と呼ばれる種は値段が高く、ものによっては、公共品種の10倍と言います。値段が10倍でも10倍の収穫があるとは思えませんから、これは普通に考えて一般の農家では買えないでしょう。民間品種を作っている会社は、どれも化学会社です。彼らは種と肥料…