松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

マル農のひと

真ん中の本は金井真紀さんが取材し、

本文と挿絵イラストを書いた
道法正徳さんというフリーの農業指導員を、
紹介する本である。
金井さんは、世界の扉ページに、
世界のことわざと言うコーナーを書いていて、
これも短い文に挿絵が付いているのだが、
いつもいいなぁと思って読んでいた。
また最近ルポライター安田浩一さんと二人組みで、
お風呂のエッセイを連載しているのを、
ネット上で楽しく読んでいる。
安田さんは差別の現場に必ず抗議に出かける人で、
私はずっと前からその人柄を信頼している。
なぜこの二人がコンビになったのか実に謎だが、笑
これも大変面白い。
そんなんで初めて金井さんの本を読んでみたのである。
道法さんという人がやはりとても個性的で面白いし、
道法さんの農業指導の講演をきっかけに、
それぞれの現場で、従来のやり方と違う方法で、
意欲的に農業に取り組んでいる、
周辺の人々の取材がまた素晴らしい。
無農薬無肥料を高く掲げるわけではないが、
植物の本来の力を存分に発揮させることで、
農薬も肥料も人の手も大幅に削減し、
お金をかけず楽して美味いものを作って儲ける!
という、どこまでも力強い道法さんである。
道法方式の実践者の一人として、
水俣の公務員福田さんが出てくる。
水俣は化学物質の垂れ流しによって、
あまりにも重い被害を経験した場所である。
だからこそここでは、
身体に安全な美味しいミカンを作りたいと言う、
杉本栄子さんのミカン畑の指導をしているのが道法さん。
杉本さんは自身も水俣病を患いながら、
最後まで強く優しく戦った方で、
石牟礼さんの彼女に捧げる感動的な詩がある。
こんな所で水俣にまた出会うとは。

つい先日も世界の読者のお手紙のページで、
原田先生の言葉を引用している方があり、
あー、その通りだ、これ以外ないだろうと思ったばかりである。
コロナに関連して政府批判する人に、
息のかかった知識人やお金で買われた有象無象が、
寄ってたかって誹謗する状況があるわけだが、
水俣の時もまさにそういう事があったわけです。
生涯水俣病患者をみて、そういう矢をあちこちから受けた、
原田正純医師の言葉である。
この本とは直接関係がないけど、
せっかくなので紹介してみる。
「医学は中立で、いっぽうの側に立つものではないという意見も根強くあるが……病者の側でない側の医学というものがあるとすれば、それは、一体、何を指すと言うのだろうか」
原田正純「裁かれるのはだれか」世織書房1995年

世界9月号 読者談話室より林衛氏のお便りから

紹介があちこちしたが大変面白い本でした。
「マル農のひと」絵と文 金井真紀 左右社刊
付け加えて、装丁は矢萩多聞氏のものだが、
私はこの人の描き文字が大好きである。