松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「ピネベルク、明日はどうする!?」読了

この本の最初に出てくるお母さんが、

あんまりおっかないので途中下車していたが、
もう一度手に取るとどんどん面白くなった。
以前紹介した「ベルリンに一人死す」と同じ、
ハンス・ファラダの本である。
ベルリンの方はかなりシリアスだが、
こちらはもう少し砕けた調子で、
時代的には少し早く、ヒットラーが政権を取る少し前の頃。
ピネベルクという若者が結婚して、
奥さんと二人、生まれた息子と、
失業や貧乏と不穏な社会情勢の中で、
悪戦苦闘する話である。
坊や、子羊ちゃんと呼び合う仲良しの新婚さんだが、
この子羊ちゃんが素晴らしく安定しているのに対し、
坊やは傷つき怒り落ち込み、なかなかつらい。
社会の不平等とナチの台頭など、
戦争に突入する前の世相が、今の日本の不安定さに、
酷似していて、本当に身につまされる。
この本は本国でもよく売れ、20カ国で翻訳され、
今もドイツの学校の教科書にも出てくるらしい。
かたやベルリンの方は著者の死後発売された。
著者は一貫してナチスに批判的な姿勢をとっているが、
投獄されたり薬やお酒に依存したり、
精神病院に入ったり、かなり破滅的な人生を送り、
53歳の若さで死んでいる。
ナチスは主にヨーロッパのユダヤ人を大量に殺したわけだが、
ロマや障害者も殺されているし、
心あるドイツ人もまた多大な被害にあっているという事。
いろいろ考えさせられて昨日はよく眠れなかった。
短めの章の初めについている、
見出しがユーモラスで気が利いている。
訳も良かった。

「ピネベルク、明日はどうする!?」
ハンス・ファラダ著  赤坂桃子訳