松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「人形」読了

1212ページの長編小説ついに読了。
こんな長いもの読みきれるかなぁと思ったが、
面白くて小説もやはりいいもんだなぁと思った。
訳文が良いのも大きい。
去年の翻訳の大賞を取っている。
日本で訳出されるものはほとんどが英語で書かれたもの。
当然英語の翻訳者もたくさんいるはずで、
そうなれば優れたものも多そうに思うが、
実感としてはそうでもない。
やってる人が少なそうな言語の方が、
安定しているのかもしれない。
これを訳した関口時正氏は略歴を見れば、
大御所の先生であるから良いのは当然かもしれないが。
訳者の最後の解説も大変面白く、
内容の濃いものであった。

この小説は新聞に連載されたものである。
第一回目が1887年(明治20年)。
その頃の日本では、逍遥の「当世書生気質」や、
二葉亭「浮雲」などが出ている。
これらに比べて、今日の読者に十分読ませる感じは、
恐るべきもの。
戦後も各国で翻訳され、2016年韓国、ベトナムに続いて、
この日本語訳が25番目になるというから!
一言で言えば恋愛ものということになるが、
ポーランドという国の情勢、
ロシアの支配、ドイツの圧力、
当時国民の三分の一がユダヤ人であり、
貴族階級と庶民の圧倒的格差など、
その背景が縦横無尽に活写されていて、
興味深いこと限りなしである。