松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「羊飼いの暮らし」2

著者ジェイムズ・リーバンクスの羊たちは、
フェルと呼ばれている山に放されている。
羊たちは人の世話を受けず自由に自然の中で生活する。
山の草を食べて子どもを育てる。
途中、毛を刈る時や出産などで何度か山から下ろす。
冬場は干し草を羊飼いたちがフェルまで出前する。
(自然とか自由とかって言葉が最近使いにくくてしょうがない。笑)
フェルは、ナショナルトラストであったり、
どっかの貴族であったり、土地の所有者は別にいるが、
この土地の羊飼いは(一つのフェルに何軒かづつ)
放牧権をいうものを持っていて、
自由にこの山で羊を育てることができる。
そして群れを麓に下ろす時などは、
すべての羊飼いが一緒に力を合わせて働く。
昔の入会地のような感じか。
フェルは柵も何もないただの山で、
いくつものフェルが尾根で繋がっている。
行こうと思えばどこへでも行けるわけだが、
羊たちはちゃんと自分のうちのエリアを知っていて、
どっかに勝手に行っちゃったりしない。
毎年新しい血が入るが、リーダーの雌が取り仕切り、
厳しい吹雪はここでやり過ごすなどの知恵を、
その集団に伝え、その牧場の羊たち固有の特徴やまとまりは、
世代を超えて受け継がれていく。
こう言うのも文化と言えるのかもしれない。
人間と同じなきがする。
気温は低く雨や雪が多い厳しい気象条件だが、
人も羊もそんな風土に耐えながら、
頑張って適応して最も正しいやり方を選びながら、
共に長い歴史を刻んできた。

そう言う生き物の生き方というのが、
今の日本ではすっかり忘れ去られている。
自己責任で生きる人々は様々な背景が抜け落ちて、
現在という殺風景なポイントにひとりで突っ立っている感じ。
安富先生が馬を連れて街を歩く時、
共感する人と拒絶する人に分かれるのは、
そう言うわけなんだろう。