松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

北山杉

木の本はとても面白かったので、
やまでちゃんと紹介しようかとも思ったのだけど、
付箋つけてしっかり読んで、
引用の部分は間違えのないようにちゃんと打ってと、
人気がない割にあれはあれで結構気を使うので、
精神的にも物理的にもちょっと余裕がなく、
できなかった。
せっかくなので一つだけ軽く紹介する。
北山杉のこと。
床柱などに使われるまっすぐでツヤツヤのあれ。
私は昔から写真を見たり、
一度は電車の窓から見た気もするが、
頭の先だけ葉っぱがあるあの不思議な光景を、
どうしてああなっているのかと思っていた。
この本でついに真相を知ることになった。
苗木を密に植え、若いうちから下枝を切り落とし、
てっぺんだけに枝を残して育てると、
根本も先も太さが同じ、ああいう木が育つらしい。
成長は遅く柱材になるまで3、40年かかるという。
垂木用の台杉という作り方はもっとすごい。
杉を植えて数年経った時、下枝は残し中間の枝を切り払う。
残された下枝から芽が出てくると、
これをまた柱材の時のように、頭を残し他は全部切り払う。
株の上に直立する丸太が育つ。
これは直径3、4センチになるのに、
2、30年かかると!
これも古い日本建築、お茶室とかで見たことがある。
屋根の軒に丸くて細い材が並んでいるようやつ。
普通の杉と台杉をくらべると、
曲げ強さで30パーセント、衝撃強さで2倍にもなる。
これは驚異と言っていいと小原先生は書いている。
このような杉の育て方は室町時代くらいからあったらしい。
こうすればこんな木ができるのではないかと、
たぶん何百年もかけて実験したことだろう。
日本人は凄まじいことを思いついてやったものである。
醤油の醸造に一年かけるのさえ効率が悪いと、
インチキ促成栽培で醤油もどきを作る時代に、
これらのものが経済的に成り立つとは思えない。
特に垂木は需要がないと思うが、
実に現在も台杉の技術は京都で残っているらしい。
天然記念物と文化遺産との複合遺産ではないか。
特殊な育て方で、特殊な形に自然物を育てる、
こう言う方法は世界でも珍しいのではないかと。
盆栽などとも少し似ているが、
建築資材として使うためにやるところが凄い。
建築物の強さや美しさに対する、
強烈なこだわりである。