松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「梁塵秘抄」4

今様はその名の通り、
今現在の世の有様をいち早く歌にしているから、
流行りのファッションから政治的な物まで、
本当にテーマは多岐に渡る。
梁塵秘抄を書いた後白河院は本当に面白い人で、
次の天皇を誰にするかの、
やばいゴタゴタに対する批判的なものも、
自分が当事者なのに、ちゃんと載せている。
こう言うのはいつの時代にも激しくあったわけだが、
当時は武士の台頭で、複雑さも極まった。
井上靖の本では、四人の話者が、
それぞれに後白河院の人となりについて、
語る形式だが、四人目は九条兼実である。
この人はなかなかのお家柄である。
弟だか兄さんは慈円という天台宗の座主であり、
この人の時に若き親鸞比叡山に入っている。
東京新聞で「親鸞」連載中の時は、
熱心に読んでいたが、
確かに今様に関する記述もあったように記憶する。
西行は、その外祖父源清経が今様の名手だったとあるが、
あの有名な、
「願わくは花の下にて春死なんその如月の望月の頃」
は正に今様感がたっぷりである。
その後廃れたとは言え、当時は広くそれなりに長く歌われ、
様々のものに影響を与えたものである。
紫式部日記枕草子、その他に、どんな今様が、
どのような状況で歌われ楽しまれたか、
様々な記述が残っていて、これも面白い。

また、石取りというお手玉のような遊びが出てきたが、
これを「いしなとり」と書かれてある。
私が子どもの頃、主に小石は、
「いしな」と言っていた。
あれは古語であったと知った。
方言にに古い言葉が残る例はたくさんあるが、
平安時代と同じ言葉であった。
また着物の色で「麹塵(きじん)」というのが出てくる。
渋い黄緑色とある。
現在の麹カビは真っ白であるが、
これは放射線照射によって作られた突然変異種であり、
元々の天然の麹カビは、正に渋い黄緑色をしている。
本物は見ていないが、写真で見たことがあるし、
娘の田んぼの稲についたコロニーも、
それであった。

登山客にはあまり好評ではなかったかもしれんが、
植木朝子さんの丁寧な解説で、本当に面白かった。
彼女は今様に関する著作をたくさん書かれているので、
もうひとつどれかよんでみたい。

梁塵秘抄後白河院
植木朝子編訳
ちくま学芸文庫 1300円