松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「休戦」おまけ

プリーモ・レーヴィと私とでは、
生まれた時代も場所も受けた教育も食べたものも、
全く違うわけだが、
どうしてこうも何の問題もなく共感できるのだろうか。
現在日本に住んでいる多くの日本人の、
考え方や行動の方が、
私には理解できないものが多いように思う。

様々な不条理、限界を超えるような、
苦しみ悲しみの体験を経てもなお、
残っている優しさや、感動する心、好奇心。
人間の底なしの実力を見るようだ。
そういう意味ではこの本は重いばかりではなく、
非常に愉快で面白い部分も多く、
読後感は必ずしも悲惨なものではない。
今、2冊目の短編集「リリス」を読んでいるが、
ここにもまた新たに多くの人々が出てくる。
それぞれが個性的で驚くべき多様な人間達。
人間とは本来このように、
複雑で興味深い生き物であるはずであろう。

訳者の竹山博英氏について。
レーヴィの全ての著作を訳しておられる。
「休戦」に関してはたくさんの注が訳者の手によって、
加えられているが、この岩波文庫版では、
見開きごとの最後に注が付いている。
世の中に注がついた本は多いが、
ほとんどが本文が終わった最後に、
あるいは章の終わりごとにまとめて載せている。
しかし、これではページをその都度繰らなければ、
読めないので、読み飛ばす事が多い。
今回はページはそのままで、すべての注を読む事ができた。
本を作る上で、組版の時の面倒はあったと思うが、
訳者の意図を反映できるよいデザインだと思う。
訳者の丁寧な注は場合によっては、
痒い所に手が届く以上のもので、
自覚症状のないところもきっちりフォローしてくれる。
文中の表現が、ダンテの神曲からの引用であるとか、
イタリアの地方のよく知られた特色であるとか、
ヨロッパの歴史文学全般に詳しくない私には大変役に立った。
そうそう、この前「モロトフカクテルをガンディーと」
(まだ出版されていない)の紹介の時、
私が「モトロフ」と書き間違えて、
賢明なる読者の爺に、指摘していただいた。
(モロトフカクテルとは火炎瓶の事で、
爺はかつてそれの作り方の小冊子を所有していた)
この本でそのモロトフさんが出てきた。
本人ではなく壁に描かれた絵の登場人物として。
竹山さんの注では、モロトフペンネームで、
本名はヴャチェスラーフ・ミハーイロヴィチ・スクリャーヴィン、
当時の外務大臣であると。
竹山さんは偉い!