松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「休戦」5

1945年5月8日に戦争は正式に終わり、
ロシアもヴィクトリーデイということになった。

この時に著者は、やや呆気にとられながら、
ロシアの隠し持っていた強烈な魅力に、圧倒される。
「ソヴィエトは巨大な国で、
その内奥に大きな情熱のかたまりを宿していた。
その中には、祭りや、催しや、全体的なばか騒ぎにたいする、
叙事詩の時代のような、喜びにわれを忘れる能力、
原初の生命力、汚染されていない異教的な才能が見られた。」
かすかに残っていた軍の規律は消え失せ、
人々は何やら怪しげな準備をしている。
この時はまだアウシュビッツからそんなに離れていない、
ポーランドの収容所にいるのだが、
そこの職員と軍人たちは、勝利を祝う、
楽しい出し物の大イベントを画策していたのである。
それは収容所のお客である、イタリア人たちに、
提供されたのであった。

小学校の体育館に即席に作り上げた舞台にみんな詰めかけた。
司会者はエゴーロフ大尉。
彼はぐでんぐでんで登場し!
ほぼ泣き上戸状態で、しゃくりあげながら!
喜劇的あるいは愛国的演目を紹介するのだった!
診療所で手伝いをしていた著者と馴染みのある、
司令部の全員が舞台に立った。
普段の顔からは予想もできない姿で。
マリアは合唱隊の指揮者である。
ロシアの合唱が全てそうであるように、
ハーモニーと重量感は素晴らしく、著者を感動させる。
ガリーナは民族衣装に身を包んで、
驚くべきダンスを見せる。
ダンチェンコ医師とひげ面モンゴル人は、
二人で組になって、コサックダンスらしい物を踊る。
二人とも酔っ払いながら、
「空中に飛び上がり、しゃがみ込み、
足を蹴り上げ、かかとで独楽のように回ったのだ。」
それらは全て二、三日のうちに用意されたものだが、
喜びにひたり、表現する能力の炸裂で、
友好的な愛にあふれたものであった。