松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「休戦」3

この本には正にありとあらゆる種類の人々が出てくる。
同じ収容所の生き残りの中には、
ちっぽけな悪党や商人やレンガ工、
その他いろいろの風変わりで個性的な人物が登場する。
著者自身はトリノで化学を学んだドットーレであり、
インテリである。
しかしそういう多様な人間に対する、
彼の基本的に愛情深くしかも客観的な、
観察の鋭さはただ事ではない。
出てくる人物の全てが、私が外観を含めて完璧に想像できるほど、
活き活きと(人々の身体状況は決して生き生きしていないが)
リアルである。
その中の最年少は、おそらくアウシュビッツで産まれた、
名前のない、身体障害を持った、言葉を発することができない、
3歳ほどの子どもである。
彼は死ぬまで、無言のまま、強迫的な圧倒的な存在感を、
周辺に主張し続けていた。
こういう子どもまでがいた事を、
今まで私は知らなかった。
彼の発育不良の細い腕にも、
あの入れ墨の番号が入れられていた。