松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

なかったこと

寒い冬が魚の産卵のシーズンらしい。
「苦海浄土」に、
海に春が来た時の美しい描写がある。
陸に若葉が芽吹く頃に、
海の中でも春の躍動が始まる。
湾の中にピンク色の鯛の群れが入ってくる。
海藻だって芽吹くんだしね。
私はこの本を読むまで、
海の中の季節の移ろいを、
想像したこともなかった。
本当にびっくりして感動した。
海が大好きなその人が、その美しさを、
うっとりと思い出しながら、
あの優雅な方言で語る。病院で。
海に帰りたいと…

「よくわかっていないけど短期的で局所的」な、
影響が今起きているだろうとおもうと、
本当に悲しい。
新聞もこの話は取り上げない。
トカラ列島に流れ着いた不気味な油の写真は、
ほとんどの国民の目には触れないのだろう。
この先もずっと。

とにかく最近水俣をよく思い出す。
ユージンスミスの写真展に行ったせいもあるが。
国もチッソも因果関係を認めず、
その間にどんどん患者が増えた。
福島もワクチンもみんな同じ。
なかったことにされた惨事が、
どんどん積み重なって、
ヘドロのように堆積していく。