松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「100年のあとさき、米澤弘安日記の金沢」

姉の友人のご主人である砺波和年氏の書かれた、
2013年出版の「百年のあとさき」を読んでいる。
米澤弘安という加賀象嵌の職人の日記から、
当時の暮らしのいろいろを読み解いている本である。
弘安は1887年明治20年に生まれ、1972年昭和47年没
日記は長く続けられたものであるが、
この本では明治から大正の部分を扱っている。

世の中には強い郷土愛を持つ人もいれば、
故郷を逃げ出したいという人もいて、
私はどちらかというと後者である。
だから故郷に対する気持ちはあっさりしたものである。
それでもいい歳になってから客観的に、
あの町もま面白いかなと思うようにはなった。

この本を読んでいると当時の庶民、
職人の普段の生活にものすごい量の、
文化的知的な刺激が満ちているのに驚く。
どこの国かと思う。
これでは現代人が叶うわけがない。
知的水準の劣化は当然だろう。

この日記は弘安氏のアフター5の記録でもある。
昼間はちやんと仕事をして、
そのあとの時間の使い方がすごい。
謡の稽古、お茶の稽古、図書館通い、映画館通い。
高等小学校をでてからは私塾に通い、
主に数学国語の勉強をする。
とにかく仕事を終えてからの夜、様々な事をする。
金沢の図書館は大正12年にできたが、
何と当時、夜も利用できた!
102席の大閲覧室、児童、婦人用の部屋も。
彼は1ヶ月に10日以上通っている。
謡は金沢では本当に裾野が広かったようで、
身につけていなければ恥ずかしいという程のもの。
弘安は狂言の小舞もやっていたようだが、
謡のほかに、
小鼓、大鼓、笛などをやる人も近所にはたくさんいた。

このほかに、一般的な家の行事がある。
1月年賀回礼、2月かきもち編み、節分、4月ひな祭り、餅草摘み、
5月春祭り、7月墓参り、盆の挨拶、8月虫干し、四万六千日、
9月秋祭り、11月恵比寿講、12月鞴祭り、雪覆い。
(12月のふいご祭りは家業で使うふいごに感謝する行事である。)
また季節の行事、
1月売り初め、4月蓮如忌、5月此花踊り、
6月兼六園杜若、7月金石海水浴、両川夜店見物、
8月別院お花揃い、9月近江町絵行灯、10月キノコとり、
11月菊花見物
こういう行楽もちゃんと繰り出す。
お稽古事にはそれに関する行事もあるわけで、
もう大忙しだろう。
何という盛りだくさんなお楽しみであろう。
豊かな生活とはこういうものだなぁ。

戦争があったりで高度成長期を挟んで、
こうした行事は多くが消えたが(たぶん日本中で)
金沢の恐るべきところは、
それでも幾らかは生き残っているところである。
姉が狂言をやっていた時は、
神社などで小舞を奉納する行事があったが、
いつか見た金石の神社の奉納のチラシに、
第三百何十回とかという言葉があって、
あっけにとられた。
300年以上毎年やっているということである。