松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「博物誌」

ルナールの「博物誌」を読んでいる。
訳者は岸田國士である。
ルナールというのはあの「にんじん」の作者である。
最近はあまり有名じゃないのかもしれないが、
にんじんはメロンが嫌いだろ?という、
恐ろしい台詞は忘れられない。

この博物誌は身近な動物一つづつに、
ごく短い文章が付いたもので、
フランスじゃ子どものお勉強の、
書き取りなどのテキストになるという。
読んでいて気が利いていて文章も面白く、
なるほどちょうどいかもと思う。
訳者が書いているように、我国の俳文学に、
通じる簡潔さがあるかもしれない。

蝙蝠の章の一部を引いてみよう。
「毎日使っているうちに夜もだんだん摺り切れて来る。
中略
どんなところでも、夜の帷の裾の入り込まないところはない。
そして茨に引掛かっては破れ、寒さに会っては裂け、
泥に汚れては傷む。で、毎朝、夜の帷が引き上げられる度に、
襤褸っきれがちぎれて落ちて、あっちこっちに引掛かる。
こうして蝙蝠は生まれて来る。」
こういう感じ。

白鳥では、泉水の上を白い橇のように滑る。
という表現があった。
私の好きな川柳の、白鳥がアイロンのように滑る、
というのを思い出した。

挿絵はこれも有名なボナールである。
うまい。

 

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