松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

お育ち

家が金持ちでそこそこ見栄えもよく、
ちやほやされて育ったら、ろくなもんにならんという例は、
ま、いっぱいあるわけです。
今突然、ちやほやってなんだろう…疑問が、
後で調べてみるわ。

ところが稀にそういうお育ちでも、
えらいもんになる人もいる。
この前読んだ石牟礼さんの本に出てきた鶴見和子さん。
この人は俊輔さんのお姉さんで社会学者である。
おじいさんはあの後藤新平、父も国会議員で、
広いおじいさんのお屋敷の敷地内の家で育つ。
美人で賢く父親のお気に入り、
それこそお姫様の様に育ったらしい。
俊輔さんはま、イケメンタイプでもないし、何より、
母親との確執が凄まじく、自殺ばかり考えていたという。
母親に復讐するために、
目の前に自分の死体を差し出してやりたいと。
しかしこの兄弟は大変仲がよく、和子さんは弟を庇い、
大人になってからも仕事上の良き理解者協力者であった。

前置きが長くなったが、
和子さんが水俣の学術調査で聞き取りに入った時の事。
聞き取りをする家を間違え、
隣だかお向かいだかに入ってしまった。
そこの主人はお風呂だか行水だかから出たばかりで、
なんと裸ん坊だった!
鶴見さんはこれはここらの漁師風俗だろうと思って、
そのままゆっくり聞き取りをしたと。

また和子さんは日本舞踊を本格的にやっていたらしく、
花柳流の名取であった。
ある時水俣で踊りの会をやったらしい。
立派な衣装を東京から運んで。
これは石牟礼さんたちが座り込みをしている時期で、
見ていないらしいが、
石牟礼さんのおかあさんなどは、すっかり感激して、
「和子先生は踊りの神さまぞ、まるで夢んごたった」
と度々はなされたそう。
たいへんな人気者であったらしい。

お育ちのいい人の中には、ごく稀に、この様な、
なんの衒いもない、
のびのびした清々しさがある事もある。