松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

北大路魯山人さん

北大路魯山人は有名な人だから、

名前くらいは知っている人は多いと思う。
私も織部が好きな人か、わがまま者、
くらいの感じしかなかった。
イサム・ノグチの本を読んで、
彼が魯山人の家に一時期逗留して、
焼き物を焼いていたことを知って、
ちょっと興味が湧いた。
今回は山代温泉の彼の寓居跡で本を買ったわけだが、
これがとても面白かった。

陶芸というものにあまり詳しくないが、
陶土の質と釉薬と窯、窯で燃やす木の種類や温度、
それらいろいろが化学変化の作用を経て出来上がる。
非常に複雑で、自然の采配というか、
個人の関与できない部分もつねにあるものである。
日本の陶芸家と言うのは、だいたいがなんとか焼きの、
地元で、主にそこのやり方で焼くが、
魯山人の場合、あれも焼くこれも焼くという具合に、
いろんなものを試してみたい。
そして地元ではやらない組み合わせの釉薬の使い方なども、
どんどん試したい。
私は好みとしては志野焼、萩焼などは、
あまりいいと思ったことがなかったが、
魯山人のものは確かにちょっといいかも、と思った。

いろいろな人間関係のトラブルでも有名な人だが、
年表を見ていると、窯元から陶工を引き抜くという事を、
しらっと書いてあるが、
これは、トラブルの元凶の一つだったんじゃないか。
場合によっては陶土も他人にあげたくないくらいのもの、
技術者を持って行くなんて、窯元から見れば、
許しがたいことではないだろうか。
とにかく彼は陶芸家では無く、いわゆる、
アーティストなんだろう、それも超わがままな。

彼の作品を見ていてつくづくわかるのは、
形でも色でも模様でも無く、(それもあるが)
一番大事なのは、質感、素材感、
マチエールというものだろうと。
天然自然のものの持つ手触りのようなもの、
それの調和と言うものが何より大事だったのではないか。
漆の作品でも、あのツルツルの本仕上げではなく、
紙ぶせという和紙を乗せて、
その上から漆を塗る仕上げを好んでいる。
これの上に切った箔を貼り付けたりしているが、
漆でも職人を引き抜いている。

彼が死ぬまで過ごした、
北鎌倉の自作の桃源郷があるが、これはスケールが凄い。
広大な敷地に、竹藪や千枚田、桜の大木、
そこに点在する茅葺き屋根の家々…
(豪農の家を移築したもの)
全くあっけにとられる大規模なマイホームである。
そしてこれは自然の質感の総合力、彼の芸術の結晶である。
現代の建売住宅に魯山人を閉じ込めたら、
一時間くらいで発狂するのではないか。笑

彼は料理人としても有名である。
焼き物も漆ものも、基本的に使うものである。
この皿にはこんな料理を載せたいと、
思う気持ちはもちろんわかる。
最高のセッティングで最高の味を楽しみたいという、
究極の贅沢が彼のお望みである。
妥協せずやりたい放題をわがままに貫くのも、
多分大変なことである。
なかなか凡人にはここまではできない。
才能的にもお金的にも精神力的にもね。
要するに、たいした奴であった。


今読んでいる「日本の枯葉剤」が凄まじすぎるので、
ちょっと魯山人に逃避してみました。笑
何の罪もない動植物がバンバン死ぬ、
私の最も苦手とするタイプ…