松井なつ代のやま

ステンシルのイラストや本の紹介、麹の話、そのたいろいろ。

「数学する身体」5

チューリングはイギリスの数学者。
数学の世界にいくつもの画期的な革命を起こした天才であるが、
人工知能についての論文を書いた初めての人である。

チューリングの才能は戦争中も大活躍する。
ナチスドイツの「エニグマ暗号」とそれより洗練された、
「タニー」と言われる暗号を、サクサクっと解読してみせる。
この時の副産物として、コンピュータが生まれたのである。

1948年に、書かれた「知能機械」という報告書では、
「神経系の単純なモデル」のような、
幾つかのユニットのネットワークを作り、
互いに干渉を受けて自己変更する
「学習」のメカニズムを取り入れている。
この報告書を受け取った、
当時のNPL所長チャールズ・ダーウィンは、
「小学生の作文」と評価しこれをボツにしたため、
この画期的な論文は、
20年も日の目を見ることがなかったという。
ダーウィンったら…

1950年の「計算機械と知能」という論文の中で、
「模倣ゲーム」を提案する。
機械が女性になりきって、壁の向こうの質問者を騙すというもの。
「機械は考えることができるのか」と言うような、
やや文学的な曖昧な問いに対し、
「人間を演じる機械ができるか」という形で答える。
こういう風に、明瞭な課題設定に作り直すことで、
一つづつ問題を処理していくというのが、
数学者に必要な能力らしい。なるほどである。

チューリングはゲイであったので、当時のイギリスでは、
「著しい猥褻」の罪で起訴されるなど、
いろいろ社会との軋轢もあったが、
逆境を物ともせず研究に励んだらしい。
しかし、42歳を目前に謎の多い突然の死を迎える。
枕元に齧りかけのリンゴ、口からは青酸の香り。
自殺と報じられたが有力な証拠もなく、真相は不明だという。
うーん、白雪姫みたいじゃないか…