「数学する身体」3
著者は若い。30歳。
そして、わかりやすく、端正な綺麗な文章を書く。
文化系の学部から、岡潔の本に出会って、
数学の道に路線変更した人です。
理系の人は文章が下手とは全然思わないし、
文系だ理系だという区別もなんだかなぁと思うが、
文章を書く人は数学に弱いという印象はある。
本の最初の部分で、その代表のような、
(ご本人が繰り返し書いておられる)
石牟礼さんを思い出したからである。
この著者は子どもの頃から数字が好きだったと。
公園にも海にもこの先は行ってはダメがあったが、
「その点、数字は広い。どこまでもどこまでも続いていて
(中略)
好きなだけ進んでいける自由があった。」
と書いている。
石牟礼さんは子どもの頃お父さんに、
数はどこまで数えられるのか、と聞き、
永遠に続くんだという答に、
数字は恐ろしい、嫌いだと思ったと書いていた。
数字を自由だ、と好きになる子もいれば、
恐ろしいと嫌う子もいるのであった。
私はといえば、子どもの頃は数字自体に、
特別な愛も憎しみもなかったと思う。
ただ、小学校を終えて以降は、数学というものが苦手で、
今日まで、小学校で教わったことだけで、
人生の荒波を乗り越えてきたのである。
長じては人々が、数字ばかりを信じる事に、
不快感を持つようになり、密かに憎みはじめたところである。
年収や、賞味期限や、内閣支持率や、肝臓の数値などなど。
私には数学の楽しみに出会う幸運はなかったのだ。